スポーツイベントで命を守る熱中症対策ガイド

猛暑が当たり前になった近年、屋外イベントやスポーツ大会では、よりしっかりとした救護体制づくりが欠かせません。その最大のカギを握るのが 熱中症対策 です。軽い立ちくらみから命に関わる熱射病まで、症状は幅広く、現場の備えひとつで結果が大きく変わります。本記事では、主催者・参加者それぞれが押さえるべきポイントを体系的に整理しました。
まずは“熱中症”を正しく理解する
熱中症は「体温調節機能の破綻」を原因とする総称で、初期のめまいや筋肉痛から、けいれん・意識障害を伴う重篤な状態まで段階的に進行します。特に高温多湿、風が弱い環境、睡眠不足や二日酔いなどの体調不良はリスクを跳ね上げる要因です。こうした条件下では、汗が蒸発しにくく熱がこもりやすいため、はっきりとした症状に発展するまでに要する時間は想像以上に短くなります。
主な症状と特徴

- 熱失神:炎天下で立ち続けたり、急いで立ち上がったりした際に血圧が下がり、めまいや一時的な意識消失が生じます。皮膚血管の拡張と下肢への血液貯留のために血圧が低下、脳血流が減少して起こります。足を高くして寝かせると通常はすぐに回復します。
- 熱けいれん:大量発汗後に水だけを摂取し続けると血中塩分濃度が低下し、こむら返りのような激しい筋けいれんが起こります。下肢の筋だけでなく上肢や腹筋などにも起こります。生理食塩水(0.9%食塩水)など濃い目の食塩水の補給や点滴により通常は回復します。
- 熱疲労:脱水と循環不全により、強い倦怠感・頭痛・吐き気などが現れます。スポーツドリンクなどで水分と塩分を補給することにより通常は回復します。飲水ができなければ医療処置が必要です。
- 熱射病:体温が 40 °C を超え、脳機能に異常をきたして意識障害が進行する緊急事態です。応答が鈍い、言動がおかしいといった状態から進行すると昏睡状態になります。死亡率が高くなる多臓器不全へと雪崩れ込む前に、救急車を要請しつつ、いかに早く冷却できるかが生死を分けます。
熱中症になりやすい人・条件

下記に該当する場合は、特に注意が必要です。
- 高齢者(死亡率が高い)。
- 乳幼児(脱水に陥りやすいので注意)。
- 持病がある人(糖尿病、高血圧など)。
- 寝不足、体調不良、二日酔い。
- 暑さに慣れていない、急な運動。
- 湿度が高い、風がない、日差しが強い環境。
主催者・運営者が設計すべき“安全のしくみ”
開催前:計画・準備段階が重要
- 気象データと開催判断基準を可視化する ── WBGT(暑さ指数)や気温の推移をチェックし、「何度を超えたら中止・短縮」といったラインを全関係者に周知します。
- 会場を“涼しいハイブリッド空間”にする ── 日陰用テント、ミストシャワー、送風機、アイスバス(高齢者へは慎重に)などをレイアウトし、体を冷やせる環境を構築します。
- 給水と塩分補給を“当たり前の動線”にする ── 冷えた飲料水を十分に用意し、氷や経口補水液、塩飴などを同線上に配置。補給ポイントは「見える化」し、休憩ごとにアナウンスを挟みましょう。

開催中:熱中症を“起こさせない”“見逃さない”
- 定時コール&クイックチェック:プログラムの合間に「いま水を飲もう」「体調どうですか?」と声をかけ、参加者に自身の体調を確認してもらいます。
- 救護環境の整備:救護班・医療スタッフを配置し、冷やす場所(クーラーの効いた部屋など)の確保するだけでなく、冷却グッズの準備(アイスパック、濡れタオルなど)が必要です。
- リスクコミュニケーション:熱中症対策に関するアナウンス、ポスター掲示で「無理はしない」「異変を感じたらすぐに申し出る」ことを、イベント開始前から啓発しましょう。
熱中症予防運動指針(運動前の判断目安)
WBGT ℃ | 湿球温度℃ (大気の気温) | 乾球温度℃ | 指針 | 説明 |
31以上 | 27以上 | 35以上 | 原則中止 | 特別の場合以外は運動を中止する |
28以上 | 24以上 | 31以上 | 厳重警戒 | 運動は中止すべき。運動する場合は、10分から20分おきに休憩をとる |
25以上 | 21以上 | 28以上 | 警戒 | 激しい運動では30分おきに休憩をとる |
21以上 | 18以上 | 24以上 | 注意 | 運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する |
21未満 | 18未満 | 24未満 | ほぼ安全 | マラソン等では熱中症が発生するので注意する |
出典・参考:https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid922.html
参加者ができる熱中症対策(個人向け)

コンディションを整える
前日はしっかり睡眠を取り、炭水化物・タンパク質・電解質をバランス良く補給。体調に不安がある場合は思い切って参加を見送る判断も大切です。
賢い装備と補給術
通気性・吸汗速乾性のウエア、明るい色の帽子、首元を冷やせるタオル――これだけで体への負荷は大きく変わります。水分は「喉が渇く前に少量をこまめに」、スポーツドリンクや経口補水液で塩分も同時に補給しましょう。
もし倒れた人を見かけたら —— 応急対応のフローチャート

- 涼しい場所へ移動
- 衣類をゆるめ、体表を冷やす(首・脇・脚の付け根など太い血管を狙う)
- 水分と塩分を少量ずつ摂取(意識がはっきりしている場合)
- バイタルサインの確認: 体温や呼吸状態、意識状態などを確認する。
- 意識障害・けいれんがあれば迷わず119番 —— 早期搬送こそ最大の治療です。
アプリの活用: 日本救急医学会の熱中症応急処置・診断支援アプリケーションを使用すると、問診をして重症度判定ができ、どのような対応をすべきか、近隣に医療機関があるかといったことがわかる。
まとめ
熱中症は「発生後の対応」よりも「発生させない設計」が最も重要です。主催者は 仕組みと環境 を、参加者は 自分の体調管理と迅速な申し出 を担うことで、イベント全体の安全性は飛躍的に高まります。「ちょっと変だな」と感じたら、それは体からの最初で最後のサインかもしれません。迷わず立ち止まり、周囲に声をかけましょう。安全を土台にしてこそ、スポーツやイベントを安心して楽しむことができます。